MASATO NASU

Peripheral Memory

A place for thoughts, discoveries, and things I don’t want to forget. I keep notes here on ideas before they become works, things that catch my interest, and memories I want to hold on to.

The Q-bit Exists について

The Q-bit Exists について

260709

#コンセプチュアルアート#数学とアート#量子力学#記号論#ConceptualArt#QuantumArt#MathArt

量子コンピュータの世界では、情報の最小単位を「量子ビット」と呼び、|0⟩ や |1⟩ という記号で書きます。この作品の式は、その記法で書かれたひとつの状態です。 まず左側の |0⟩。普通の数学で「0」は無を意味します。長さも大きさもない、何もないもの。ところが量子力学では、0 を |·⟩ という括弧で囲んだ瞬間、それは「長さ1のベクトル」——つまり確かに存在するひとつの状態——になります。無だったはずの 0 が、括られることで「在るもの」として登録される。仏教には「空亦復空(くうやくぶくう)」——空もまた空である——という言葉があります。何もないという事実さえ、絶対のものとして固定しない。この式では、その運動は右側の項で起きます。 次に右側の |0.999...⟩。0.999... という数は「まだ1ではない」の連続です。0.9、0.99、0.999——1を否定し、その残りをまた否定し、またまた否定する。空じ続ける運動が、9の一桁ごとに一回ずつ遂行されていく。そして数学が証明するとおり、その果てで 0.999... は1に等しくなります。否定を無限に続けると、否定は裏返って肯定になる。虚無に落ちる代わりに、1が——世界が——戻ってくる。 つまりこの式は、数学的には |0⟩ と |1⟩ を半分ずつ重ね合わせた状態——量子力学でもっとも基本的な「重ね合わせ」——と完全に同じものです。ただし、書き方が違う。値の世界では両者に一切の差がなく、差は「どう書いたか」にのみ存在します。そして空じ続ける運動が起きているのも、まさにその表記の中です。0.999... は値としては最初から1であり、1に近づいていく途中経過は、書かれた9の列にしか存在しないからです。この作品が在るのは、計算の中ではなく、書くという行為の中です。 そして「量子ビット」とは、情報の最小単位のことでした。これ以上分割できない、いちばん小さな一つ。その一つの中で、すでにすべてが起きています——無が括られて在るものになり、否定が繰り返され、繰り返しの果てに裏返り、裏返った先に存在が立つ。無と否定と存在の関係の全体が、最小の単位の内側で演じ切られている。宇宙を語るために、これより多くの部品は必要ありません。大きくなっても、増えるのは量だけで、構造はもうここに出揃っている。この小さな式は、だから、宇宙全体のことです。 空亦復空。 否定の無限収束は裏返る。 それは在る。 一行目と二行目は右の項——空じ続ける運動と、その果ての裏返り。三行目は左の項と全体——括られた空も、測定前の重ね合わせも、同じ理由で、在る。